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東京高等裁判所 平成4年(ネ)4012号 判決

控訴人(原告) 森田武

被控訴人(被告) 東京土建一般労働組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和六三年六月二日付通知書をもってした控訴人に対する除名処分が無効であることを確認する。

3  控訴人が被控訴人の組合員であることを確認する。

(被控訴人)

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

本件事案の概要は、原判決の「第二 事案の概要」の一ないし五に記載のとおりである(ただし、次のとおり訂正付加する。)から、これをここに引用する。

一  原判決七頁六行目の「求める告発手続をとった」を「求め、告発が可能か具体的に相談をした」に、同頁九行目の「承認」を「議決」にそれぞれ改める。

二  原判決一〇頁一行目の「与えなかった」の次に「、同手続きにおいて除名理由の有無を判断できるだけの資料を提出しなかった等の」を加える。

三  原判決一七頁三行目の「である。」の次に「控訴人は、昭島警察署に告発が可能か否か相談に行ったのであり、告発手続はとっていない。控訴人が」を加える。

四  原判決一八頁末行の次に改行して次のとおり加える。

「(三) 被控訴人は本件除名を第四一回定期大会に提案するに当たって除名事由を調査し、大会代議員が除名理由の有無を判断できるだけの資料証拠を提出すべきであるのに、これをしなかったが、これは実体的にも除名事由のない処分であり、かつ手続き的にも違法である。」

五  原判決二五頁五行目の末尾の次に改行して次のとおり加える。

「(四) 被控訴人は昭和五九年当時から、被控訴人多摩西部支部(以下「本件支部」という。)から控訴人の行動につき説明を受け、その後も調査を行っている。そして第四一回定期大会当日も、被控訴人本部の議案書のほかに、本件支部から説明資料が提出され、それらを踏まえて、右大会で全員一致で控訴人の除名が議決されたものであり、手続き上何ら問題はない。」

第三当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決二五頁九行目の「五一」の次に「、五七」を、同行目の「四六」の次に「、四八、四九」をそれぞれ加え、同二六頁六行目の「永山の」を「被控訴人西多摩支部の永山が同年一月頃から独自に行っていた」に改め、同頁七行目の「原告」の前に「そのため、同年二月頃から」を加え、同頁九行目の全文を次のとおり改める。

「同月七日の本件支部執行委員会で、会計上の問題は議論されなかったが、沢田副委員長から会計監査に外部監査を入れる提案がなされ、また池田書記次長は同年三月六日個人的に永山の自宅を訪れて、同人に説明する等した。」

二  原判決二七頁二行目の「等から」から同頁七行目の末尾までを次のとおり改める。

「、小林常任執行委員、前記佐藤及び小松、国立の分会長稲田等から事情聴取をしたところ、辻常務執行委員から池田降ろしだという話が出たこともあって、会計上の不正を名目にして池田を役員から降ろす目的の行動であるとの判断に至り、同月一七日の執行委員会においてその旨が報告され、さらに同月七日の執行委員会で佐藤が提起した書記の給与や残業代等の会計上の質問に対しても池田書記次長により回答がされて、いずれも承認された。その間の同月一二日付で永山が、支部執行委員に対し、「常任委員各位殿」と題する書面(乙六号証)を配布して、佐藤が質問した前記疑問点につき数字を挙げて指摘し、これに答えることを要求したため、本件支部では、委員長、書記長、池田書記次長が、永山の属する被控訴人西多摩支部に対して、他支部の問題につき、機関を通じることなく機関を無視して発言することのないよう、永山の右行動を指導するように申し入れた。」

三  原判決二七頁九行目の「税理士」の前に「小沢」を加え、同頁一〇行目の「うえ、」を「。小沢税理士は、永山らが作成した前記書面(乙六号証)等も検討した上で、助手二名と共に監査を実施して、監査報告書を作成し、右監査報告書と」に改め、同頁一一行目の「大会で」の次に「昭和五八年度の決算は」を加え、同二八頁一行目の末尾の次に続けて次のとおり加える。

「なお、右支部大会での承認に先立ち、同月一六日頃に大会に向けて開催された分会議、群会議でも、右監査報告書及び決算報告書は検討されており、また本件支部大会では、一〇数人程度が参加する分散会で、執行部から提案された議案につき自由に発言する機会が確保されているが、右分散会においても、前記会計上の問題につき疑問は出されなかった。」

四  原判決三四頁七行目の「告訴」を「告発に向けての一連の」に改め、同三九頁二行目の末尾の次に続けて次のとおり加える。

「控訴人は、昭島警察署に告発手続をとっていないと主張する。しかし、控訴人は同警察署に告発が可能か否か相談に行った事実は認めているのであり、また、前示のとおり控訴人は、昭和六二年一〇月の「組合員の皆さん」と題する文書(乙七号証)や、「公開質問状を出すにあたって」と題する文書(甲六号証の二)で、被控訴人中央執行委員会や組合員に対し、本件会計上の問題につき刑事告発を行う旨意思を表明し、同年一一月二三日付の「声明」と題する文書(甲四号証)では、被控訴人中央執行委員会の刑事告訴をすべきではないとの意見を受け入れる旨を表明しながら、昭和六三年四月には、昭島警察署に若干の資料を携えて告発が可能か否か相談に行き、その結果、警察署から本件支部の照井委員長と北林書記長に呼び出しが掛かった。このような事実経緯によると、控訴人が、仮に捜査機関に正式な告発状を提出していないとしても、控訴人の申告に基づき捜査機関が捜査に着手したものと認められ、控訴人が実質的に告発手続を行ったものと認められるから、控訴人の前記主張は理由がない。」

五  原判決三九頁五行目の「判断」の次に「は正当であって、右判断」を加え、同行目の末尾の次に改行して次のとおり加える。

「控訴人は、昭和五九年四月の本件支部大会で昭和五八年度の決算が承認されても、右大会では、控訴人の主張する会計上の問題は議題に記載されてなく、議論されておらず討議の対象外であったから、大会の承認はなく、承認が擬制される余地もない、また右大会での承認は執行部の執行責任を承認したものに過ぎず、これにより会計上の不正については免責されないし、本件支部大会以前の会計上の問題につき問題は解消したとの事実上の推定も働かない、したがって本件経理につき決着していた訳ではないから、控訴人が刑事告発しても、被控訴人組合が団結権に基づき統制することはできないと主張する。

しかし前示のとおり、昭和五九年二月頃から、控訴人、佐藤、永山が本件支部執行委員会に対し、書記の給与や残業代等の会計上の疑問点につき質問を行ったのに対し、本件支部では、同年三月七日の執行委員会で、四役で構成する調査委員会を設置して、控訴人を含む多数の関係者から事情聴取した結果、今回の動きは会計上の不正を名目にして池田を役員から降ろす目的の行動であるとの判断には至ったが、同月一七日の執行委員会において、前記会計上の質問に対する回答がなされて承認され、さらに同年四月八日に新たに外部監査人である税理士により、昭和五八年度の収支につき会計監査が実施された。右税理士による監査報告書及び決算報告書に基づき、昭和五八年度の決算が、分会議、群会議での検討の上、昭和五九年四月二二日、二三日の本件支部大会で承認されたが、右支部大会及びその際の分散会において、控訴人、佐藤、小松等から会計経理に関する質問は一切出されなかった。その後、控訴人が前記会計上の疑問点とされた点を被控訴人に追及することはなく、本件支部執行委員会でも、その点が問題にされることはなかった。しかし昭和六〇年三月に佐藤の横領問題が生じた後、控訴人は、突然、同年四月一二日に、支部大会代議員や組合員に原判決別紙文書(甲一号証)等を配布して、再び前記会計上の疑問点とされた点につき被控訴人執行委員会を追及するに至ったものである。

以上のような調査、検討の経緯を経て昭和五九年四月の本件支部大会で昭和五八年度の決算案が承認されたことに照らせば、右支部大会以前の本件会計上の問題については、組合として決着させたものと考えるべきである。甲五七号証によっても、同年三月一七日の本件支部執行委員会で池田書記次長が佐藤の提起した会計上の疑問点につき回答していた事実が認められるのであって、右認定は左右されない。

そうすると本件支部大会後の昭和六〇年四月に至って、組合員である控訴人が被控訴人を、新たな事情が判明したなど、特段の事情の発生を指摘することなく、軽々しく本件会計問題につき従前の主張を蒸し返し、被控訴人執行部を批判することは許されないものと認められるのであり、これに反する控訴人の前記主張は採用できない。」

六  原判決三九頁七行目の「平山和雄、」の次に「池田大丈夫、」を加え、同頁九行目の「本件支部」を「被控訴人組合」に改め、同四〇頁七行目の末尾の次に改行して次のとおり加える。

「(三) なお被控訴人本部執行部では、以上判示のような経緯に照らし、控訴人には組合規約四〇条の統制事由があると認め、その行為の態様、結果、影響等に照らすと除名事由に該当すると認めた結果、被控訴人第四一回定期大会に、控訴人の除名を提案した。右定期大会当日には、被控訴人本部の「森田武の除名処分について」と題する議案書(乙二号証)のほかに、本件支部から経過報告が行われ、本件支部としても除名処分に賛成である旨の意見表明がされた。右定期大会では、それらを踏まえて、全員一致で控訴人の除名が議決されたもので、大会代議員が控訴人の除名事由の有無を判断するのに十分な説明資料が提出されていたものと認められる。」

第四よって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤滋夫 矢崎正彦 水谷正俊)

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